2022年11月09日

鎌倉文学館特別展「没後35年 澁澤龍彥 高丘親王航海記」レポート

鎌倉文学館で開催されている特別展「没後35年 澁澤龍彥 高丘親王航海記」に行ってきました。近藤ようこ先生の「高丘親王航海記」の原画も展示されていると聞いていたので、早く行きたかったのですが、ようやく行って来られました。

会期:2022年10月2日(日)〜12月23日(金)
会場:鎌倉文学館(〒248-0016 神奈川県鎌倉市長谷1-5-3)

2階の特別展示室A→第1部「高丘親王航海記」が生まれるまで/第2部 澁澤龍彥「高丘親王航海記」への航路
1階の特別展示室@→第3部「高丘親王航海記」の世界
の3部構成なのですが、ちょっとわかりづらい…1部屋1部構成かと一瞬勘違いしてしまいました。

鎌倉文学館の入口は2Fにあるので2Fの特別展示室Aから見ることになります。「高丘親王航海記」の原稿、創作メモ、自筆の地図が展示されていました。その作品の源泉となった少年の頃読んでいた海洋冒険小説、出来事(カフスボタンを飲み込んだ話)、その後読んだ東南アジア史、東洋史、高丘親王の伝記など参考にした大量の本等についても触れられています。

1Fの特別展示室@「第3部「高丘親王航海記」の世界」に近藤ようこ先生の原画が登場します。澁澤龍彥の原稿の横に少し展示があるのかな…くらいの予想で行ったのですが、原作の原稿と並べて全面的に原画が展開されていて、全部で26枚も展示がありました。展示されているのは単行本で言うと下記のページです。

第1巻:儒艮II p44〜45/儒艮IV p94/儒艮V p119〜120/蘭房II p175
第2巻:蘭房III p34〜35/獏園I p48/獏園III p96、p120
第3巻:密人IV p12、p35、p38/鏡湖II p85、p87/鏡湖III p99/鏡湖IV p129/真珠I p171
第4巻:真珠IV p62〜63/頻伽III p138/頻伽IV p155、p162、p164〜165

ストーリーに沿って展示がされていて、原稿と原画が並んでいます。とても素晴らしい試みです。私は先生の絵の方を重点的に見てしまいましたが、ちゃんと原稿も見ましたよ。なんとも言えずなまめかしい薬子の顔、かわいい儒艮などたくさん原画で見られて楽しかったです。

図録を見ればどの絵が展示されていたのかわかります。図録は通信販売されています
880円+送料300円。注文書をダウンロードしてFAXか郵送だそうです。
展示の詳細が入っているので、遠方やご都合がつかない方は是非。

マンガの原画展ではなく、あくまでも文学展に組み込まれて原画が展示されているという前提でいくと仕方がないのですが、以下の2点については不満でした。
1.原画の位置が低い場所がある…座り込まないと見えないケースもありました。
2.原画の前に棚があって原画が遠くなる
文章の原稿ならまだ読めるとは思いますが、マンガ原稿は細部が命なので。

また、これは原画展ではないし、原画展は以前行われているので仕方がないのですが、この作品、見開きで素晴らしい絵がたくさんあるのです。原画展として見るなら他にももっと見たい絵があったなぁ…というのが正直なところです。これも仕方がないです。今回ピックアップされた原画はストーリーの中では重要なものだと思います。

見学日は11月8日です。今年はバラの成長が早く、例年より早めに散ってしまったようでしたが、お天気がよく気持ちの良い日でした。鎌倉文学館は2023年4月から4年間の休館に入ります。その前に行っておいてよかったと思いました。

追記
鎌倉文学館ではこの展示に合わせて近藤ようこ先生の講座動画をアップしました。2023年1月31日までの視聴となります。
文学講座「小説を漫画に描く」近藤ようこ さん(鎌倉文学館公式YouTubeチャンネル)

鎌倉文学館


没後35年 澁澤龍彥 高丘親王航海記パンフ


西洋の芸術文化や歴史への深い造詣から、独創的なエッセイや小説を書いた澁澤龍彦。彼の没後35年を記念し、唯一の長編小説で遺作となった「高丘親王航海記」に焦点を当てます。平安時代に生きた高丘親王の天竺への幻想的な旅を書いた作品と澁澤龍彦の魅力について、草稿や創作メモなどの資料と、漫画家の近藤ようこさんがコミカライズし高く評価された「高丘親王航海記」の原画をとおし紹介します。

〈特別協力〉澁澤龍子、近藤ようこ(漫画家)
〈寄  稿〉堀江敏幸(作家)
2022.11.09. 23:49 | イベントレポート

2021年10月03日

近藤ようこ先生の個展「南方綺譚」レポート

南方綺譚2021年10月2日〜17日に近藤ようこ先生の個展「南方綺譚」が東京の青山にあるビリケンギャラリーで開催されています。9月10日、『コミックビーム』2021年10月号で「高丘親王航海記」が完結しました。これを記念してのものです。
また、10月12日には待望の4巻が刊行されますが、いち早くギャラリーで販売されています。しかもサイン付き。

「更紗」や「テラス」に白人の女性が登場します。南蛮時代の女性の衣装は時々描かれているように思えます。「午睡」の王子様(?)の衣装など特徴的です。また、お着物にピンク〜赤みがかった色が多いのですが、お好きな色だそうです。

モノクロの原画はちょっと変わったおもしろいページをピックアップされています。原作ではピンと来なかった場面なので、鏡のページに私は注目しました。この時代の中国の鏡はどうなっているのかわからないので、ネットを駆使して探し出して描かれています。探すのは大変でも、中国はまだ古くからのものが残っていて、他の国の過去の時代を描くより調べやすいとのこと。

しかしこのコミックビームの表紙を出してしまうとは…本当に先生は画集を出すおつもりがないのだなぁと。出してください…。

ビリケンギャラリー●モノクロ 原稿 15枚

○上段右から
「高丘親王航海記III」p125〜127
「高丘親王航海記IV」p74〜75
「高丘親王航海記III」p51、p50

○下段右から
「高丘親王航海記IV」p40〜42、p96〜98、p182〜183

●カラー 大 10枚 左から順に
「廃園」水彩絵具、墨、パステル
「更紗」水彩絵具、墨、色えんぴつ
「虎の女」アクリル絵具、墨
「陳家蘭」アクリル絵具、墨
「ラフレシア」(コミックビーム表紙画)水彩絵具、墨、筆ペン
「午睡」水彩絵具、墨、色えんぴつ
「スイレン」アクリル絵具、墨
「高丘親王航海記」(コミックビーム表紙画)
「テラス」水彩絵具、墨、パステル
「蓮」水彩絵具、墨、パステル

ビリケンギャラリー●カラー 中小 8枚 左から順に
小作品@〔キツネ〕
「紙風船」一筆箋原画 水彩絵具、墨
小作品A〔ネコ〕
小作品B〔少女とネコ〕
小作品C〔少女と羽根〕
小作品D〔人魚〕
小作品E
小作品F〔虎の女〕


日時:2021年10月2日(土)〜17日(日)12:00〜19:00
(定休日:10月4日、5日、11日、16日)
場所:ビリケンギャラリー
〒107-0062 東京都港区南青山5-17-6-101
TEL:O3-3400-2214 FAX:03-3400-2478
地下鉄表参道駅B1出口より7分
ホームベージ


2021.10.03. 14:47 | イベントレポート

2020年09月05日

近藤ようこ先生の「高丘親王航海記原画展」レポート

高丘親王航海記原画展2020年9月5日から近藤ようこ先生の個展「高丘親王航海記原画展」が始まりましたので、青山ビリケンギャラリーまで行ってまいりました。「高丘親王航海記」の原画と、それ以外描き下ろしの原画が展示されています。初めて見る絵と単行本や雑誌の表紙を飾ったカラー原画がありました。墨の線がちょっと今までと違う感じがしますが、近藤先生らしい柔らかさが感じられました。

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出品されている原画は以下の通りです。
●高丘親王航海記より
カラー原画『コミックビーム』2019年4月号表紙
カラー原画 4枚 序
モノクロ原画 10枚
・儒艮III(単行本1巻 p64〜65)
・儒艮V(単行本1巻 p112〜113)
・蘭房II(単行本1巻 p178〜179)
・密人I(単行本2巻 p134〜135)
・密人III(単行本2巻 p194〜195)

●カラー原画 13枚(※左から順に)
「ちごいま」(「室町時代の女装少年×姫」カバー) 320x220 水彩絵の具・墨
「楓」320x220 アクリル絵の具・水性インク
「蟇の血」(コミックビーム2017年9月号表紙) 270x225 水彩絵具 墨
「葡萄」370x255 アクリル絵の具 水性インク
「襤褸」320x220 水彩絵の具 墨
「唐草」320x220 アクリル絵の具 パステル 水彩インク
「薊」370x255 アクリル絵の具 水性インク
「くわずいも」320x220 アクリル絵の具 水性インク
「小さ男と姫君」(「猫の草子」カバー) 160x210 水彩絵の具・墨
「ラフレシア」365x320 アクリル絵の具 水性インク
「百合」小さな絵
「花」小さな絵
「芥子」小さな絵

※「高丘親王航海記」のカバー色校(井上則人)の展示。

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9月11日から一般販売が開始される「高丘親王航海記」1巻2巻のサイン本が買えます。それ以外の御著書にもサインされていらっしゃいました。これだけ近藤先生の本が揃うと壮観です。

2020090505.jpg「高丘親王航海記原画展」
2020年9月5日(土)〜21日(月)
12:00〜19:00 月火休み(21日休日営業)
ビリケンギャラリー

2020.09.05. 23:15 | イベントレポート

2017年09月28日

森下文化センターの講座「怪奇・恐怖マンガの世界」のレポート

20170917.jpg2017年9月17日(日)、森下文化センターで開かれた講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回 近藤ようこ先生の回を聞いてきました。大型の台風が近づいていましたが、無事開催されました。
メモと記憶だけで書いているので、勘違いや思い込みで間違いがあるかもしれません。お気づきの際にこちらからご連絡いただければ、速やかに修正します。どうぞよろしくお願いいたします。

講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回 日本の中世を現代の目で描く
日時:2017年9月17日(日) 14:00〜15:30
会場:江東区森下文化センター 2F 多目的ホール
講師:近藤ようこ先生
企画・コーディネート:綿引勝美(元秋田書店編集者)

講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回。怪奇・幻想マンガのルーツは江戸時代や中世の伝承文学です。今回は「日本の中世を現代の目で描く」と題し、近藤ようこ先生が講師を務められます。コーディネーターの綿引さんと近藤先生は國學院大学の漫画研究会の先輩・後輩だそうです。國學院大学の漫画研究会は嵐山光三郎氏が設立した歴史ある研究会とのことでした。


1.現在、近藤先生は田中貢太郎の「蟇の血」を連載中
田中貢太郎は戦前に人気のあった作家で、怪談をを書いたり、怪談を紹介したりしています。とても多作な人です。10年くらい前に初めて読んで、とてもおもしろいのでマンガにしたいと思ったのですが、ようやく発表できました。

2.高校時代
新潟中央高校という女子校にいました。その学校には漫画研究会がなかったので、高橋留美子さんらと一緒に設立しました。その頃は24年組がブームだったので、夢中になって読んでいました。
(この辺りで『少年チャンピオン』が出てきました。確かに当時はすごい勢いで、山上たつひこ「がきデカ」の話などが出てました。「光る風」が好きだったので驚いた、というお話をされていました。何故そんな話になっているのかというと、コーディネーターの方が秋田書店の編集者だったからなんでしょうね。)

3.大学進学
高校卒業後の進路を考えたとき、進学して自分の好きな勉強がしたいと思いました。私は白土三平先生の忍者マンガが好きで、その物語に描かれている「何か」が学びたくて、でもその「何か」がどんな名前のわからなくて、いろいろ調べていたら、民俗学というものがあることを知りました。歴史学者の上田正昭先生の「日本神話」(1970)によると、柳田学は幸福の民俗学、折口学は別れや死をあえて拾い上げていた不幸の民俗学であるという趣旨の言葉を読みました。そちらの方が自分にとってはいいなと思って、折口学を学ぶことを決めました。

4.大学時代
大学3年生の時には卒論のテーマを決めなくてはなりません。その頃、網野善彦の「無縁・公界・楽」(1978)が出て、中世史の新しいブームがやってきました。その本は、白土マンガに描かれているような農民以外の職人やこつじき・芸能民など、正史に出てこない人の人々の歴史を取り上げたものでした。

私は卒論のテーマに「説経節」をとりあげました。説教は中世末期から近世初期にかけて成立した口承文芸です。民俗学を卒論のテーマにするのはよいけれど、文学部なので文芸を中心にしなさいと言われたので。
説教節には「五説経」という代表的なものがありますが、「苅萱」「愛護若」「信田妻」「梅若」「山椒大夫」と言われています。

5.説教節「しんとく丸」
「妖霊星―身毒丸の物語」(1992〜93)
「しんとく丸」は謡曲「弱法師(よろぼし)」と同根の物語です。「しんとく丸」に「身毒丸」の字を、「弱法師」に「妖霊星」の字をあてたのは、折口先生に拠るものです。


6.民俗学とマンガ
「カムイ外伝」の「くノ一」のエピソードが大好きでした。抜け忍カムイが木こり集団によそ者として入り込んでいるお話で、木こりが歌う歌がいいんです(※アニメでも再現されています)。網野善彦「無縁・公界・楽」の世界です。

7.懐かしく思い出す「白土マンガ」
大人になって柳田国男を読み、折口信夫を読み、宮本常一を読んで、懐かしく思い出すのは、こういう農民以外の世界を描いた作品でした。

8.楽しく描いた「水鏡綺譚」
「水鏡綺譚」の連載は『ASUKA』という少女マンガ誌だったので、少女向けを意識したのところに少し無理があったようです。残念ながら打ち切りになってしまいましたが(後に完結編を描いて単行本にまとまりました)。「ころころとかわいくて、素朴で、エロチック」な作品にしようと思ったのですが、これは自分が子どもの頃に好きだった白土三平さんの少年マンガのテイストです。ネタを探すのは大変でしたが、原点そのものを使うわけではなくて、現代風にアレンジしたりもしました。


9.「今昔物語」とマンガ
「鬼にもらった女」に収録されている「残された女」(2004)は「苅萱」、「打つ女」(2004)は「今昔物語」、「鬼にもらった女」(2005)は「長谷雄卿草紙(はせおぞうし)」が元ネタです。古典の物語のパターンは定形があるので心理描写などもアレンジしやすいです。



10.「今昔物語」と白土三平
白土マンガに「今昔物語」を取り上げた「鬼」という作品があります。
・兄弟が鬼を退治する話
・恋人を裏切った男の話
・鬼の出る堂にいった三人の男の話
(※この辺ちょっと聞き逃してしまいました。)


11.口承文芸「説教節」のマンガ化「小栗判官」
説教 小栗判官「小栗判官」は説教節の中でも一番長くて、いろいろな要素がたくさん入っていておもしろい作品です。いつかマンガに出来たらと思っていました。描き下ろしで白泉社さんから出してもらって(1990年)、文庫(筑摩文庫)にもなりました。最近も角川書店から出してもらいました。
岐阜県大垣市や神奈川県藤沢市のほか各地に残っている「小栗判官・照手姫」の伝説ですが、ゆかりのある地域の人が集まって小栗サミットなども開かれました。私の「小栗判官」は岩佐又兵衛の「小栗」という絵巻物を参考にしました。絵巻物では小栗は烏帽子をつけた公家の姿をしています。小栗は元は公家ですが流罪の末、武士の頭領になりました。ですから、公家の姿のままではマンガにするとき描きにくいので、武士の姿にしました。


12.中世の恋愛模様
猫の草子「猫の草子」に収録されている「雨夜の姫」(1988)。月夜の姫と雨夜の姫という娘がいて、雨夜の姫はいわゆる現代的な美人で、月夜の姫は下ぶくれの、樹下美人図のような顔をしています。当時の美意識では月夜の方が美人だったのです。「南蛮貿易」が始まっていて、海外に出れば美意識が逆転して美人として見られます(「南蛮船」)。


13.中世の人間模様
花散る里(綿引)「花散る里」(最初の方)のあとがきに「時代物でわざわざ近代的な人間像を描く必要はない。神や仏に翻弄され、運命を縮めるという、人間が何百年もやってきたことを私は描きたいだけだ。」とありますね。
(近藤先生)昔の人は神や仏や運命といったものに翻弄されて生きています。そういうふうに物語は描かれていて、そのやり方でマンガを描くと「キャラが立っていない」と言われてしまいます。今のマンガはキャラクターの魅力で進めていくのが主流なので、私のマンガはちょっと向いていないんですね。


14.「逢魔が橋」
逢魔が橋小学館で連載した作品です。
「二河白道図」(にがびゃくどうず)は地獄と極楽の間にかかる白い橋を描いたものです。
橋はどこにも属さず、ひとつの世界から別の世界に渡す物だから、そういう場所を設定すればいろいろな物語が描けるかなと思いました。狂言回しとして橋守を設定しました。


15.「桜の森の満開の下」
桜の森の満開の下夜長姫と耳男"
坂口安吾の「夜長姫と耳男」と「桜の森の満開の下」は小学館のもうなくなってしまったインターネットのサイトで連載したものです。当時、江戸ものが流行っていたので、そういうものを描いて欲しいと言われて、それは私は得意な分野ではないので、他の方にお願いして下さい、と申し上げました。すると当時の小学館の常務さんが、いやあなたに描いて欲しいのですと言われまして、好きなものを描かせていただけるのなら、とお引き受けしました。この二冊は近々岩波書店から岩波現代文庫で出されます。

「夜長姫と耳男」は耳男は物をつくる人で、その喜びや悲しみを語っているので、私も物をつくる人間なので描きやすかったのですが、「桜の森の満開の下」は、もっと心理的な内容でわかりにくい作品でした。でも、安吾の中で一番人気があって、しかもまとまっている作品です。主人公の山賊はずっと山の中で暮らしていたので、自然と自分の区別がついていない人間でした。それが8人目の嫁に出会うことで、世界と自分は違うのだということがわかってしまった人間の悲劇です。安吾のこの作品における「桜」のイメージは空襲の後の上野公園に死体が並べられていて、その上に桜が散っているのを見たときのものだそうです。


16.「戦争と一人の女」
戦争と一人の女安吾は「女を書けない」人なんです。この小説は女の一人称で書かれているのですが、ここに出てくるのは実は「何も語ってない女」なんです。ですから、マンガにするときに工夫が必要でした。


17.「死者の書」
死者の書「死者の書」には川本喜八郎さんの人形アニメーション作品もありますが、私の作品と解釈が同じですね。滋賀津彦は死んでいるのですが、郎女を自分が好きになった耳面刀自と思い込んで蘇って夜這いにきます。それを郎女がとても怖がっています。でも違うところもあって、アニメーションは死者と俤人(おもかげびと)とを同じ造形にしているのですが、私は俤人と滋賀津彦は違う人だと思っているので、そこは違います。
「死者の書」は折口民俗学を前提として知っている人に向けて書かれているので、知らない人がいきなり読むと難しい作品です。私のマンガはそういう人が原作を読む助けになって欲しいと思っています。


18.「蟇の血」
蟇の血今、2話目なのですが、ちょっとまだダラダラした感じです。この後から変な世界になっていきます。



20170917-2.jpg講座は有料なだけあって、資料やスライドがきちんと用意されていました。近藤先生の作品が次々と現れ、展開が早くてついていけなかったので、それだけ充実してみっちりした内容だったと思います。
講演終了後、近藤先生のサイン会が開かれました。
2017.09.28. 17:36 | イベントレポート

2017年03月12日

個展「物語る絵2」再訪しました。

近藤ようこ個展「物語る絵2」ビリケンギャラリーで開かれている近藤ようこ先生の個展「物語る絵2」ですが追加された絵があるというので、再訪しました。2017年3月12日、最終日でした。小説や物語を糸口とした描き下ろし絵画作品が15点、「夢十夜」の原画18枚が展示されていました。


左から(★は後期に追加された絵)
「少女地獄・火星の女1」夢野久作『少女地獄』から(水彩絵具・アクリル絵具)
「人魚姫」(墨)★
「少女地獄・火星の女2」(水彩絵具・アクリル絵具)
「日本霊異記」吉祥天が男の願望に応える(水彩絵具)
「蝉丸」(水彩絵具)
「じゃがたら文」17世紀初頭、国外追放された混血児のイメージ(水彩絵具)★
「天稚彦」御伽草子『あめわかひこ』から(水彩絵具)★
「夜」『夢十夜』から(水彩絵具)★
「蟇の血」田中貢太郎『蟇の血』から(水彩絵具)
「海人(珠取)」謡曲『海人』から(水彩絵具)
「骨の肉・牡蠣殻と伊勢海老」河野多恵子(鉛筆&色鉛筆)★
「夢十夜2」夏目漱石『夢十夜』から(パステル 水彩絵具)
「夢十夜1」夏目漱石『夢十夜』から。ポストカード(水彩絵具)
「桜」(水彩絵具)
「百合」(水彩絵具)

今回、さまざまな手法にチャレンジされたことがわかりました。いつもは水彩ですが、墨画、パステル画、鉛筆&色鉛筆画といった手法の作品がありました。

ビリケンギャラリーでの個展も3回目。できればそろそろ画集が欲しいところです。いま、画集を売るのは難しい時代で、滅多につくられませんが、是非お願いします。

原画は同じです(個展「物語る絵2」に行ってきました
2017.03.12. 22:18 | イベントレポート

2017年02月20日

個展「物語る絵2」に行ってきました

近藤ようこ個展「物語る絵2」2017年2月19日、青山ビリケンギャラリーで開かれている近藤先生の個展「物語る絵2」に行ってきました。小説や物語を糸口とした描き下ろし絵画作品が10点、「夢十夜」の原画18枚が展示されていました。


会期:2017年2月18日(土)〜3月12日(日)
開催時間:12:00〜19:00(毎週月曜日定休)
会場:ビリケンギャラリー(東京都港区南青山5-17-6-101 TEL:03-3400-2214)

●絵画作品10点
1.「夢十夜1」〜夏目漱石『夢十夜』から。ポストカード(左上の絵)第十夜の女
2.「少女地獄・火星の女1」〜夢野久作「『少女地獄』から
3.「少女地獄・火星の女2」〜 〃
4.「蝉丸」〜謡曲『蝉丸』から
5.「夢十夜2」〜夏目漱石『夢十夜』から
6.「日本霊異記」吉祥天が男の願望に応える場面
7.「蟇の血」〜田中貢太郎『蟇の血』から
8.「海人(珠取)」〜謡曲『海人』から
9.「百合」
10.「桜」

●原画16枚
1. 「第一夜」p6
2. 「第一夜」p7
3. 「第一夜」p8
4. 「第三夜」p29
5. 「第三夜」p30
6. 「第三夜」p31
7. 「第三夜」p32
8. 「第三夜」p33
9. 「第五夜」p64
10. 「第五夜」p65
11. 「第五夜」p66
12. 「第六夜」p78
13. 「第六夜」p79
14. 「第六夜」p80
15. 「第十夜」p142
16. 「第十夜」p143

絵画作品から。「夢十夜2」は「第一夜」の女性でしょうか?他の絵が紙にペンと水彩で色をつけられているのですが、これだけカンバスのような地で、雰囲気が違います。「少女地獄・火星の女1」の方の顔が外されている表情が怖いです。「海人」の小刀を加えた女性の厳しい表情も目を引きました。「蟇(がま)の血」は前回の「物語る絵」でも取り上げられていましたね。9と10は本を買うといただけるポストカードのイラストです。

原画の方ですが、「第一夜」の穴の中の女性の絵を見ることが出来ました。「第六夜」の彫刻の部分のみ墨で描かれていて、効果的にこの太い線を使われているのだなということがよくわかります。

3月には絵が追加されるそうです。その頃、是非また伺いたいと思います。

本日12時より漫画家 近藤ようこ個展 「物語る絵 2 」開催いたします!!!(billiken-note)


(ビリケンギャラリーに行くときはいつも近くのNicolai Bergmannに寄っていきます。)
2017.02.20. 02:02 | イベントレポート

2016年09月26日

ミュージアムトーク「國學院の学び、『死者の書』」レポート

2016年9月24日(土)、國學院大學博物館で開催されている「折口信夫と『死者の書』―生誕130年記念 特集展示」を観てきました。また、ミュージアムトーク「國學院の学び、『死者の書』」を聴いてきました。

近藤先生の「死者の書」の原画ですが、9月3日〜22日を前期、9月23日〜10月10日を後期として2回に分けて各20枚ずつ展示されます。23日からは後期なので、下巻から20枚です。

  • p8〜11の4ページ
  • p30〜31の2ページ
  • p71〜73の3ページ
  • p144の1ページ
  • p177〜179の3ページ
  • p180〜181の2ページ
  • p190〜194の5ページ


12時30分から博物館のホールではミュージアムトークが始まりました。今回は民俗学者で同大文学部教授の小川直之氏との対談形式になります。前回と異なり、この日はシックな洋装でした。お着物も素敵ですが、近藤先生は洋服姿も素敵です。

最初に歌人・釈迢空としても知られる折口信夫の肉声が残っていて、それを聞かせてもらいました。それから対談に入りました。


小川先生:近藤さんはどんな学生生活を送っていたのですか?

近藤先生:今はとてもきれいな校舎になりましたが、自分がいたころはもっと古くて狭い校舎でした。

高校生のとき、折口民俗学に興味があったので入学を考えたのですが、世間では右翼のイメージがあったので、怖かった。それで高校三年生の夏休みに見学にきました。当時の大学はどこでもそうでしたが、学生運動の立て看板がありました。右翼の学校かと思っていたら左翼もいる、バランスのとれた自由な大学なのかなと思い、安心しました。

今思うと良い大学だったと思います。卒業してしまうと、もっと勉強出来たのでは?と思ってしまいます。渋谷からすぐという街中にあるのに、静かでのんびりとした環境でした。

高校生のときに勉強したいけれど、どのジャンルかわかりませんでした。古代史なのかな?と思ったりもしました。
歴史学者の上田正昭先生の「日本神話」を読んで、民俗学というものがあることを知りました。そこでは「柳田学は幸福の民俗学、折口学は不幸の民俗学である」という趣旨の言葉を読みました。折口学は柳田学が拾わなかった「死」や「わかれ」「性」といったものを扱っているという意味ですが、それなら私は折口学だと思いました。ちょうど「死者の書」が中公文庫から出たところでしたので、早速買って読んでみて「自分がやりたかったのは、これだ」と思ったのです。



小川先生:大学で勉強したことは、今でも役に立ってますか?

近藤先生:漫画家の仕事の役に立っています。大学で勉強する過程で知った「小栗判官」を漫画化したりしました。

小川先生:デビューは大学時代ですよね。

近藤先生:大学生時代も漫研(漫画研究会)に入っていて、デビューが大学4年生でした。卒業ぎりぎりの単位しかとらず、4年生の時は授業は週に3時間だけで、あとは卒論を書くだけでした。ですから、ずっと図書館にいて、古い論文を探すのがとても楽しかったのです。

卒業後、漫画を書くときに調べ物をすることがたくさんあります。そのときに調べ物のやり方などで、大学時代に学んだことは役に立ちました。

また、4年生の時に徳江(元正)先生の「中世文学演習」をとりまして、この授業で学んだ「絵解き」の勉強は半分趣味で、半分仕事で続いています。



小川先生:「死者の書」を読んで印象に残ったところを三つあげてください。

近藤先生:全て好きなので、三つというのは難しいですが…。

1. 初めて「死者の書」を読んだとき、私の知っている言葉がたくさん出てくると思いました。これまでは古事記などでしかこういう言葉を使うものは読んだことがなかったので。

2. 話がぼんやりとしかわからない、でも何故かおもしろい、と思いました。

3. 大伴家持がおもしろい人物だと思いました。

〔すみません、ここからメモが判読できなくなっています。話がかなり抜けています〕



最初は「死者の書」を「しょ」ではなく「ふみ」と読んでいました。たぶん大学でそう習ったからだと思います。

「死者の書」は俤びとのイメージがおもしろいのですが、ほかに、郎女が夢の中で珊瑚になったシーンがおもしろいです。これは折口が海を出したかったのではないかと思います。
「ずんずんと、さがって行く。水底みなぞこに水漬みづく白玉なる郎女の身は、やがて又、一幹ひともとの白い珊瑚さんごの樹である。脚を根、手を枝とした水底の木。頭に生い靡なびくのは、玉藻であった。玉藻が、深海のうねりのままに、揺れて居る。やがて、水底にさし入る月の光り――。ほっと息をついた。」




小川先生:「死者の書」の次に取り上げて漫画化したい作品はなんですか?

近藤先生:それはありません。「しんとくまる」(「身毒丸」という漢字が一番好きです)もすでに出していますし。折口信夫は詩集を3冊(「古代感愛集」「近代悲傷集」「現代襤褸集」)を出しているので、その詩に挿絵をつけるというのをやってみたいのですが、そんな仕事は多分来ないと思います。



最後に折口信夫が描いたスケッチが公開されました。落書きやフィールドワーク中のスケッチまで、さまざまなイラストがありましたが、まさに「ポンチ絵」と呼べるような、ユーモアあふれる絵もありました。

すみません。相当飛んでいますので中身の薄いレポートになっていますが、本当はもっと中身の濃いイベントでした。

集展示生誕130年記念 「折口信夫と『死者の書』」ミュージアムトークIII
2016.09.26. 23:27 | イベントレポート

2016年09月12日

ミュージアムトーク「『死者の書』を漫画化するということ」レポート

國學院博物館2016年9月10日(土)、國學院大學博物館で開催されている「折口信夫と『死者の書』―生誕130年記念 特集展示」を観てきました。また、ミュージアムトーク「『死者の書』を漫画化するということ」を聴いてきました。大勢の方が集まっていました。

近藤先生の「死者の書」の原画ですが、9月3日〜22日を前期、9月23日〜10月10日を後期として2回に分けて各20枚ずつ展示されます。今回は上巻から20枚。展示には書籍のページと原作の該当ページが添えられています。

展示原画:冒頭のカラー4ページ分/第1話扉からp12までの6枚/p36〜37/p40〜41/p68〜69/p84〜85/p156〜157

ミュージアムトーク14時から博物館のホールではミュージアムトークが始まりました。数々のイベントで登壇されてきた近藤先生ですが、必ず聞き手がいらっしゃって、対談形式をとっておられました。今回おそらく初めて「一人での講演会」とのことで、30分と短い予定でしたが、予定をオーバーして45分くらいの時間となりました。

近藤先生と「死者の書」の出会い、漫画化する目的、そして漫画化にあたって心がけたことなどについてお話されました。展示されている原画をもとにお話を進められています。

メモから起こしていますので、抜けた部分は多くあります。また間違いもあると思いますので、こちらのフォームよりご指摘ください


「死者の書」と出会ったのは、この中公文庫の本で、ここに「75.6」とメモがあるので、1975年の6月に購入したと思われる。高校3年生でどこの大学に進学するか考えていた頃、自分のやりたいことが、どのジャンルになるのかわからなかった。民俗学というものがあり、それも柳田学ではなくて折口学というものであるあることがわかった。ちょうどその頃に出会ったのだと思う。それ以来41年経って漫画化することになった。

自分自身がおもしろいと思って漫画化したのだが、最終的には皆さんに原作を読んで欲しいと思って漫画化した。
インターネットで検索すると、案外「死者の書」を読んだことがある人は大勢いるのだが、「何が書いてあるか、わからなかった」「途中で諦めた」という人が多い。それは残念なので、入門書というか手引きのようなものなら、自分のも出来るのではないかと思った。昨年から今年始めにかけて『コミックビーム』誌で連載した。

「死者の書」の何が難しくて読みにくいのかと考えた際に、一つは時系列がバラバラなこと。二つ目に読者に折口学の基本や歴史の知識があることを前提に書かれてあるため人間関係などがわかりにくいことがあげられるのではないか。そのあたりを整理してわかりやすくしたが、自分の解釈は入れていない。「死者の書」については人形アニメーションは見たが、なるべく研究書など他の情報は目に入れないようにした。テキストを折口の原作のみとした。

今読める「死者の書」は初稿から構成を入れ替えてあるもの。そこでオープニングは「彼の人の眠りは、徐かに覚めて行った。」とある通り、滋賀津彦が蘇るシーンから始まる。初稿は郎女が家出をしてお寺の門に入るところから始まる。初稿は時系列の通りでわかりやすいので、その通りに描こうと思ったのだけれど、冒頭に死者の目覚めも欠かせない。そこで折衷案として郎女が山を歩いて行くところと死者の目覚めを同時に描いた。

(以後はスライドに原画が写ります)

1) 「死者の書」上巻カラー4ページ(図は冒頭の1ページ)
「死者の書」上巻カラー連載を開始するにあたり、カラーを入れるように言われたのだが、冒頭は闇で真っ暗だから、カラーは要らないと言ったのだが、イメージがでいいからと言われ、4ページ描いた。今は描いてよかったと思う。


2) 「死者の書」上巻 p7〜12(図はp10)
「死者の書」上巻 p10「したしたした」という音は滋賀津彦のお墓の中で水が垂れる音だが、これを郎女の足音と連動させて描いている。


3) 「死者の書」上巻 p36〜37 蓮の糸について(図はp37)
「死者の書」上巻 p37蓮の糸の作り方は調べると2種類出てくる。ミャンマーでやっている方法、茎を二つに折って細い繊維を切れないように引き出していく方法を描いた。


4) 「死者の書」上巻 p40〜41(図はp41)
「死者の書」上巻 p41郎女のキャラクター設定を説明するのが一番難しかった。藤原氏の中でも〔郎女は藤原四家のうちの南家族長・豊成の第一嬢子である〕一番神に近い「斎き姫」にふさわしい人として説明した場面。藤原氏は水の信仰を司る一族であり、郎女はいわゆる「水の女」である。

郎女は乳母や語り部から自分たちの一族の物語・歴史を語られて育っている。水の女の物語と言えば、神の禊ぎを手伝うたなばた姫の物語がある。郎女はその末裔であるというイメージをここで描いている。

郎女は古い物語を聞かされて育ち、新しい知識を学び〔才を習う〕、新しい物語を求めて出て行くのだが、最後は神に仕える女として、どこかに行ったのではないかと思う。


5) 「死者の書」上巻 p68〜69 大伴家持と坂上郎女が語り合う(図はp69)
「死者の書」上巻 p69大伴家持が登場する。現世的な男性・藤原仲麻呂と異なり、大伴家持は時代遅れで政治力がなく、歌を詠むのが好きな人物。家持の人物を表現するために坂上郎女を登場させた。坂上郎女というのは家持の叔母で、一族の斎き姫である。この女性は原作には出てこない。


ちょうどこれを描いていた頃、ラグビー日本代表が勝っていて、家持が五郎丸選手に似ていると言う話題が出ていた。(会場爆笑。似てる〜!!)




6) 「死者の書」上巻 p84〜85(図はp85)
「死者の書」上巻 p85郎女が住んでいるのは平城京の館で、二上山は見えるが、方向としては、ふたこぶあるようには見えないはずだが、このように描いた。

仄暗ほのぐらい蕋しべの処に、むらむらと雲のように、動くものがある。黄金の蕋をふりわける。其は黄金の髪である。髪の中から匂い出た荘厳な顔。閉じた目が、憂いを持って、見おろして居る。ああ肩・胸・顕あらわな肌。――冷え冷えとした白い肌。おお おいとおしい。


郎女が幻を見るシーン。白い肌、黄金の髪の毛を肩にたらしている。いわゆる仏様の姿とは違うが、そのまま描いた。ガンダーラ仏のイメージが良いかと思って描いた。


7) 「死者の書」上巻 p112
「死者の書」上巻 p112滋賀津彦が処刑されるシーン。「鴨のように首をねじちぎられた」とある。絞首刑だが、今のつり下げるタイプではなさそう。両側から引っ張るように描いた。


8) 「死者の書」下巻 p8
「死者の書」下巻 p8「死者の書」は難しい。郎女によって滋賀津彦の怨念が山の上に表れた俤(おもかげ)人と合体してさまようのだと言われたが、よくわからない。よくわからないが、原作通りに絵を描いていると、はっきりするところもある。

滋賀津彦の霊が郎女を耳面刀自と思って夜訪れる足音がする。最初は怖がっていたが、次第にその訪れを待るようになる。それが少しずつ訪れなくなっていくと、さみしく思うようになる。すると、郎女は幻を見る。滋賀津彦の霊と俤人が近づいて一体化したように思えた。不思議な体験だった。


9) 「死者の書」下巻 p185
「死者の書」下巻 p185一カ所だけ自分の創作を入れた。原作には出てこない家持を再び登場させて、死んでしまった藤原仲麻呂の思い出を語らせている。




質問
高校生のときに読んで、今のタイミングで漫画化されたのは何故か?

答え
きっかけは描かせてくれる雑誌があったこと。30数年漫画を描いてきて、あとこれからどのくらい描けるかわからない。体力的に大変な仕事。今じゃないと出来ないと思った。


質問
当麻寺では中将姫伝説はメジャーで、大津皇子はそうでもないのに、何故折口信夫はこれを一緒にさせた物語を書いたのだと思うか?

答え
それはわからないが、中将姫伝説の姫と「死者の書」の郎女は違うように思う。もっと近代的なキャラクターで、もっと強い、自分の意思をもった女性に見える。



サイン中ミュージアムトーク後、サイン会が開かれました。私は下巻には以前サインをいただいたので、今回は上巻をもっていきました。

近藤先生は秋の装いか、トンボの柄のお着物をお召しでした。いつもながら素敵でした。9月ですので残暑が残っていましたが、それほど強烈に暑くない、晴れたいい日でした。


ミュージアムトーク、近藤ようこ「『死者の書』を漫画化するということ」(國學院大學取材日誌)
2016.09.12. 11:50 | イベントレポート

2016年05月14日

5月14日、日本マンガ塾のトークライブに登場されました。

近藤先生サイン中2016年5月14日、神田神保町の日本マンガ塾で近藤ようこ先生のトークイベントが開催されました。印象に残ったところだけ抜粋ですが、レポートを書きます。

企画及び司会進行の飯田耕一郎先生(漫画家、編集者、漫画評論家)と近藤先生はデビュー当時に活躍されていた場所が近いという旧知の間柄。『劇画アリス』ですね。近藤先生は『ガロ』でデビューした後、三流劇画誌ブームの中で『劇画アリス』の米沢嘉博編集長の下、自由に描かせてもらえた、と。後でお話しされていましたが、まだ20代前半だったので、無理に「エロ」を入れていた。若い女性の実体験のように思われるのも、あえて利用していたところもある。全部戦略です、と。

高校生の頃のお話しに遡ります。新潟の高校で高橋留美子先生と同じクラスになり、池上遼一先生が好きという点で意気投合、漫画研究会をつくって…というお話しは知られていると思いますが、今日その漫画研究会が「今でも続いている」と聞いてちょっと驚きました。創設者が高橋留美子先生と近藤ようこ先生だと、すごい宣伝していそう。年に1回文化祭のときに小冊子は出していたそうです。その小冊子、是非見たいです。きっとすごい貴重。

その後近藤先生は國學院大學に、高橋留美子先生は日本女子大へと進学されます。高橋先生の方は目白花子先生と大学で漫画研究会でご一緒だった(目白花子先生が会場にいらしてました)。大学在学中に「ものろおぐ」を描いて『ガロ』でデビュー。卒業後は紀伊國屋書店でアルバイトをしたものの体力がもたず、1年で辞めてしまった。

三流劇画誌や『マンガ奇想天外』の頃は12〜16ページくらいしかもらえなかったので、短編を書いていたけれど、本当はストーリーものを描きたかった。それでキャラクターを短編の中でつなげていき、単行本にするとわかる、というようなことをした。それをしなければ自分がもたなかった。

『サンデーまんが』で描き始めたきっかけは畑中純さんがまったく面識のない近藤先生を推薦したこと。それで畑中純さんの「まんだら屋の良太」を読んでみたら、とてもおもしろかった。たくさんの人物が登場して物語が広がって行く。これが『漫画サンデー』で「見晴らしが丘にて」を連作することにつながる。現代ものの描き方の幅が広がったのは、このときのことがある。畑中純さんは近藤先生にとって、恩人なんですね。

現代ものと中世もの、両方描いているけれど、中世そのものを描いても受け入れてもらいにくい。心情的なものは現代人の中にあるもので、今の読者がとっつきやすいものにしないとならない。でも現代人そのものの心情だと、中世を描く意味がない、そのバランスをいつも考えていた。中世ものは他の作家とネタがかぶらないところがいい。時代ものは考証が大変だけれど、自由なので現代ものより楽。ずっと現代ものを描いているとストレスがたまる。時代ものと現代ものは難しさの質が違う。時代ものは生首が転がっていたりとか、思い切ったことが出来るので、楽しい。

文学を漫画化することが増えたきっかけは、小学館の『SOOK』で連載した坂口安吾の「夜長姫と耳男」「桜の森の満開の下」。その後6年ほど構想に時間をかけて「戦争と一人の女」を上梓。安吾作品は完成度がそれほど高くなく、抽象的なことしか描いていない。だから漫画になる余地がある。「戦争と一人の女」はどうしても描きたかったが、雑誌連載は難しいと思ったので、描き下ろししなくてはならない。描き下ろしは先立つものがないと掛けないし、描き始めるまでに覚悟が必要だった。

「戦争と一人の女」「続・戦争と一人の女」はまったく違う小説だが、無理に合体させた。ノートにそれぞれの作品を時系列に書き出していくと、一致するところが出てくる。そこを軸にしてストーリーをつくっていった。“かまきり”という登場人物がいて、主人公二人だけだと話が進まないが、この“かまきり”がいることでうまく進んでいく。小説では成立しない穴を自分で産めることが出来る。「安吾はこう書く」というのはわからないが、「安吾ならこんなことは書かない」というのはわかる。

戦時下、実際に人々は何を考えていたのかが知りたかった。それでいろいろな人の日記を読んだ。普通の小学生の女の子から高見順、永井荷風なども参考にした。卵は闇値でいくら、などという話は高見順の日記を参考にした。東京の空襲写真はほとんどなくて、警視庁のカメラマンの写真集しか残っていない。ところが執筆中に広告会社のカメラマンが撮った写真集が出てきて嬉しかった、など資料収集の苦労についてお話しされました。

文学作品の漫画化の話は続きます。文章を読んだときに思い浮かぶ絵は人それぞれ違うけれど、自分にとってはこれだ、という絵を描いている。「夜長姫と耳男」の蛇がゆらゆらしているカット。これが描きたかった。
夜長姫と耳男
“オレが天井を見上げると、風の吹き渡る高楼だから、何十本もの蛇の死体が調子をそろえてゆるやかにゆれ、隙間からキレイな青空が見えた。閉めきったオレの小屋では、こんなことは見かけることができなかったが、ぶらさがった蛇の死体までがこんなに美しいということは、なんということだろうとオレは思った。こんなことは人間世界のことではないとオレは思った。”(「夜長姫と耳男」)


「死者の書」について。原作はわざと時系列をバラバラにしていて、わかりにくい。原作の初稿版は時系列になっていた。時系列通りに進めた方が読者がわかりやすいと思った。冒頭は闇の中、土の中ばかりの暗い絵なのでカラーは要らないと言ったのだけど、連載の冒頭なのでイメージ的な絵でいいからと編集部から言われ、カラー4ページを描いた。でも「した、した、した」の流れはどうしても冒頭から外せないので、その前に開放的な村の絵や郎女の拝む顔からスタートすることになった。結果的に良かったと思う。

折口の原作は時代的な背景、民俗学的な背景をわかっている人向けに書いているので、知らない人にはどうしてもわかりにくい。あとがきに書いたように、漫画を読んだあと、原作を読んで欲しい。自分は学者ではないので、解釈は入れない。例えば「おもかげ人」は金髪が肩まで垂れていて、阿弥陀仏のような造形とは違うけれど、漫画では原作通りに描いた。
死者の書 おもかげ人
“金色の鬢びん、金色の髪の豊かに垂れかかる片肌は、白々と袒ぬいで美しい肩。ふくよかなお顔は、鼻隆たかく、眉秀で夢見るようにまみを伏せて、右手は乳の辺に挙げ、脇の下に垂れた左手は、ふくよかな掌を見せて……ああ雲の上に朱の唇、匂いやかにほほ笑まれると見た……その俤おもかげ。”(「死者の書」)

「死者の書」については私しか漫画に出来ないという自負はある、とおっしゃってて、本当にその通りだなと思いました。

話の流れとして、どこで出た話か失念してしまいましたが、編集者との関係についてお話しされていました。ネームの直しについては編集者の言うことはほぼ全部受け入れて直す。具体的な修正点を伝えられない編集者はどうしたらいいかわからなくて、すごく困るけれど、ちゃんと言ってくれる編集者の言うことはほぼ受け入れて修正する。だから編集者によって作品の傾向が違うことがある、とキッパリおっしゃっていました。作品は漫画家と編集者のいわば共同作業なのだから当たり前かもしれませんが、ちょっと意外でした。それが近藤先生の作風が「閉じた」ものにならなかった、狭い枠の中で同じ路線をずっと行くようなものにならなかった理由だろうと飯田先生が解説してくれました。

近藤先生の次のお仕事は、5月末から岩波書店のサイトで夏目漱石の「夢十夜」の連載を開始するそうです。月刊だそうです。いずれ単行本にもなるでしょう。

サイントークイベント終了後はサイン会となりました。私は「死者の書」下巻にサインしていただきました。この時の売上金は熊本地震への義援金となるそうです。

近藤ようこさん、トークライブ(國學院大學取材日誌)
2016.05.14. 22:56 | イベントレポート

2015年09月20日

近藤ようこ先生の個展「物語る絵」に行ってきました

「物語る絵」個展の様子2015年9月19日、南青山のビリケンギャラリーで開催されている近藤ようこ先生の個展に行ってきました。「死者の書」の原画と、この個展のために描き下ろした絵が11点展示されています。描き下ろしは先生が気に入られた物語の中の一シーンを描かれたものです。

19日(土)は個展の初日で、開場の12:00時前から並んでいる方がいらして、開場と同時にわっと人が入ったそうで、私が行ったのは12:30頃だったのですが、その波が一段落して、ほっとした感じでした。でもその段階で8割方売却済みでした(20日には全部売却済み)。

○原画
「死者の書」カラー4枚、モノクロ12枚(第1回の冒頭から)

○描き下ろし(全てカラー。右から)
1.「よしや無頼」(中上健次)…背中の刺青から血を流しているところ。筆ペン。
2.「少年」(谷崎潤一郎)…女の子が少年たちに意地悪しているところ。
3.「蟇(がま)の血」(田中貢太郎)…男が椅子に縛り付けられて、ガマガエルをさしだされているところ。
4.「彼岸花」(北原白秋の詩)…季節なので。
5.「妖翳記」(久生十蘭)…色彩華やかな女性の絵。猫の毛を刈るところが面白くて、と。
6.「たまかづら」(紫式部「源氏物語」より)…夕顔の娘なので、夕顔の花を添えて。
7.「死者の書」
8.「桜の森の満開の下」(坂口安吾)…花に埋まっている女性の死体。
9.「シェイヨルという星」(コードウェイナー・スミス)…猫のようなポーズをとる女性の絵。
10.「斬首されたカーリー女神」(マルグリット・ユルスナール)…シヴァの妻で殺戮と恐怖の女神カーリーが首を切られた。生き返ることを許され首を元に戻そうとするが、娼婦の体に頭をのせて、苦しむ姿。
11.「死者の書」…ポストカードの絵。

近藤ようこさん原画展「物語る絵」(國學院大学取材日誌)の3番目の写真。右から「たまかづら」〜「斬首されたカーリー女神」です。

しかしながら、この素晴らしい絵をスキャンしていないどころか、写真も撮影されていないとのこと。ファンとしては画集や展覧会などでまた見たいと思わずにはいられません。しかし世界に一点だけの近藤ようこ先生の絵をお買い上げになられた、その絵を見ることが出来るのはその方と周囲の方だけというのは、それもまた本来の絵のあり方なのかもしれないと思い、穴のあくほど見てまいりました。

「死者の書」上 サインですから、この絵を見ることが出来るのは、この個展だけです。21日(月)はギャラリーはお休みで、30日まで開催されているそうです。

また、こちらで本を買うと先生にサインしていただけます。せっかくですから「死者の書」の上巻にサインしていただきました。

※写真はお許しをいただいて撮影しました。
2015.09.20. 23:50 | イベントレポート