2017年09月28日

森下文化センターの講座「怪奇・恐怖マンガの世界」のレポート

20170917.jpg2017年9月17日(日)、森下文化センターで開かれた講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回 近藤ようこ先生の回を聞いてきました。大型の台風が近づいていましたが、無事開催されました。
メモと記憶だけで書いているので、勘違いや思い込みで間違いがあるかもしれません。お気づきの際にこちらからご連絡いただければ、速やかに修正します。どうぞよろしくお願いいたします。

講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回 日本の中世を現代の目で描く
日時:2017年9月17日(日) 14:00〜15:30
会場:江東区森下文化センター 2F 多目的ホール
講師:近藤ようこ先生
企画・コーディネート:綿引勝美(元秋田書店編集者)

講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回。怪奇・幻想マンガのルーツは江戸時代や中世の伝承文学です。今回は「日本の中世を現代の目で描く」と題し、近藤ようこ先生が講師を務められます。コーディネーターの綿引さんと近藤先生は國學院大学の漫画研究会の先輩・後輩だそうです。國學院大学の漫画研究会は嵐山光三郎氏が設立した歴史ある研究会とのことでした。


1.現在、近藤先生は田中貢太郎の「蟇の血」を連載中
田中貢太郎は戦前に人気のあった作家で、怪談をを書いたり、怪談を紹介したりしています。とても多作な人です。10年くらい前に初めて読んで、とてもおもしろいのでマンガにしたいと思ったのですが、ようやく発表できました。

2.高校時代
新潟中央高校という女子校にいました。その学校には漫画研究会がなかったので、高橋留美子さんらと一緒に設立しました。その頃は24年組がブームだったので、夢中になって読んでいました。
(この辺りで『少年チャンピオン』が出てきました。確かに当時はすごい勢いで、山上たつひこ「がきデカ」の話などが出てました。「光る風」が好きだったので驚いた、というお話をされていました。何故そんな話になっているのかというと、コーディネーターの方が秋田書店の編集者だったからなんでしょうね。)

3.大学進学
高校卒業後の進路を考えたとき、進学して自分の好きな勉強がしたいと思いました。私は白土三平先生の忍者マンガが好きで、その物語に描かれている「何か」が学びたくて、でもその「何か」がどんな名前のわからなくて、いろいろ調べていたら、民俗学というものがあることを知りました。歴史学者の上田正昭先生の「日本神話」(1970)によると、柳田学は幸福の民俗学、折口学は別れや死をあえて拾い上げていた不幸の民俗学であるという趣旨の言葉を読みました。そちらの方が自分にとってはいいなと思って、折口学を学ぶことを決めました。

4.大学時代
大学3年生の時には卒論のテーマを決めなくてはなりません。その頃、網野善彦の「無縁・公界・楽」(1978)が出て、中世史の新しいブームがやってきました。その本は、白土マンガに描かれているような農民以外の職人やこつじき・芸能民など、正史に出てこない人の人々の歴史を取り上げたものでした。

私は卒論のテーマに「説経節」をとりあげました。説教は中世末期から近世初期にかけて成立した口承文芸です。民俗学を卒論のテーマにするのはよいけれど、文学部なので文芸を中心にしなさいと言われたので。
説教節には「五説経」という代表的なものがありますが、「苅萱」「愛護若」「信田妻」「梅若」「山椒大夫」と言われています。

5.説教節「しんとく丸」
「妖霊星―身毒丸の物語」(1992〜93)
「しんとく丸」は謡曲「弱法師(よろぼし)」と同根の物語です。「しんとく丸」に「身毒丸」の字を、「弱法師」に「妖霊星」の字をあてたのは、折口先生に拠るものです。


6.民俗学とマンガ
「カムイ外伝」の「くノ一」のエピソードが大好きでした。抜け忍カムイが木こり集団によそ者として入り込んでいるお話で、木こりが歌う歌がいいんです(※アニメでも再現されています)。網野善彦「無縁・公界・楽」の世界です。

7.懐かしく思い出す「白土マンガ」
大人になって柳田国男を読み、折口信夫を読み、宮本常一を読んで、懐かしく思い出すのは、こういう農民以外の世界を描いた作品でした。

8.楽しく描いた「水鏡綺譚」
「水鏡綺譚」の連載は『ASUKA』という少女マンガ誌だったので、少女向けを意識したのところに少し無理があったようです。残念ながら打ち切りになってしまいましたが(後に完結編を描いて単行本にまとまりました)。「ころころとかわいくて、素朴で、エロチック」な作品にしようと思ったのですが、これは自分が子どもの頃に好きだった白土三平さんの少年マンガのテイストです。ネタを探すのは大変でしたが、原点そのものを使うわけではなくて、現代風にアレンジしたりもしました。


9.「今昔物語」とマンガ
「鬼にもらった女」に収録されている「残された女」(2004)は「苅萱」、「打つ女」(2004)は「今昔物語」、「鬼にもらった女」(2005)は「長谷雄卿草紙(はせおぞうし)」が元ネタです。古典の物語のパターンは定形があるので心理描写などもアレンジしやすいです。



10.「今昔物語」と白土三平
白土マンガに「今昔物語」を取り上げた「鬼」という作品があります。
・兄弟が鬼を退治する話
・恋人を裏切った男の話
・鬼の出る堂にいった三人の男の話
(※この辺ちょっと聞き逃してしまいました。)


11.口承文芸「説教節」のマンガ化「小栗判官」
説教 小栗判官「小栗判官」は説教節の中でも一番長くて、いろいろな要素がたくさん入っていておもしろい作品です。いつかマンガに出来たらと思っていました。描き下ろしで白泉社さんから出してもらって(1990年)、文庫(筑摩文庫)にもなりました。最近も角川書店から出してもらいました。
岐阜県大垣市や神奈川県藤沢市のほか各地に残っている「小栗判官・照手姫」の伝説ですが、ゆかりのある地域の人が集まって小栗サミットなども開かれました。私の「小栗判官」は岩佐又兵衛の「小栗」という絵巻物を参考にしました。絵巻物では小栗は烏帽子をつけた公家の姿をしています。小栗は元は公家ですが流罪の末、武士の頭領になりました。ですから、公家の姿のままではマンガにするとき描きにくいので、武士の姿にしました。


12.中世の恋愛模様
猫の草子「猫の草子」に収録されている「雨夜の姫」(1988)。月夜の姫と雨夜の姫という娘がいて、雨夜の姫はいわゆる現代的な美人で、月夜の姫は下ぶくれの、樹下美人図のような顔をしています。当時の美意識では月夜の方が美人だったのです。「南蛮貿易」が始まっていて、海外に出れば美意識が逆転して美人として見られます(「南蛮船」)。


13.中世の人間模様
花散る里(綿引)「花散る里」(最初の方)のあとがきに「時代物でわざわざ近代的な人間像を描く必要はない。神や仏に翻弄され、運命を縮めるという、人間が何百年もやってきたことを私は描きたいだけだ。」とありますね。
(近藤先生)昔の人は神や仏や運命といったものに翻弄されて生きています。そういうふうに物語は描かれていて、そのやり方でマンガを描くと「キャラが立っていない」と言われてしまいます。今のマンガはキャラクターの魅力で進めていくのが主流なので、私のマンガはちょっと向いていないんですね。


14.「逢魔が橋」
逢魔が橋小学館で連載した作品です。
「二河白道図」(にがびゃくどうず)は地獄と極楽の間にかかる白い橋を描いたものです。
橋はどこにも属さず、ひとつの世界から別の世界に渡す物だから、そういう場所を設定すればいろいろな物語が描けるかなと思いました。狂言回しとして橋守を設定しました。


15.「桜の森の満開の下」
桜の森の満開の下夜長姫と耳男"
坂口安吾の「夜長姫と耳男」と「桜の森の満開の下」は小学館のもうなくなってしまったインターネットのサイトで連載したものです。当時、江戸ものが流行っていたので、そういうものを描いて欲しいと言われて、それは私は得意な分野ではないので、他の方にお願いして下さい、と申し上げました。すると当時の小学館の常務さんが、いやあなたに描いて欲しいのですと言われまして、好きなものを描かせていただけるのなら、とお引き受けしました。この二冊は近々岩波書店から岩波現代文庫で出されます。

「夜長姫と耳男」は耳男は物をつくる人で、その喜びや悲しみを語っているので、私も物をつくる人間なので描きやすかったのですが、「桜の森の満開の下」は、もっと心理的な内容でわかりにくい作品でした。でも、安吾の中で一番人気があって、しかもまとまっている作品です。主人公の山賊はずっと山の中で暮らしていたので、自然と自分の区別がついていない人間でした。それが8人目の嫁に出会うことで、世界と自分は違うのだということがわかってしまった人間の悲劇です。安吾のこの作品における「桜」のイメージは空襲の後の上野公園に死体が並べられていて、その上に桜が散っているのを見たときのものだそうです。


16.「戦争と一人の女」
戦争と一人の女安吾は「女を書けない」人なんです。この小説は女の一人称で書かれているのですが、ここに出てくるのは実は「何も語ってない女」なんです。ですから、マンガにするときに工夫が必要でした。


17.「死者の書」
死者の書「死者の書」には川本喜八郎さんの人形アニメーション作品もありますが、私の作品と解釈が同じですね。滋賀津彦は死んでいるのですが、郎女を自分が好きになった耳面刀自と思い込んで蘇って夜這いにきます。それを郎女がとても怖がっています。でも違うところもあって、アニメーションは死者と俤人(おもかげびと)とを同じ造形にしているのですが、私は俤人と滋賀津彦は違う人だと思っているので、そこは違います。
「死者の書」は折口民俗学を前提として知っている人に向けて書かれているので、知らない人がいきなり読むと難しい作品です。私のマンガはそういう人が原作を読む助けになって欲しいと思っています。


18.「蟇の血」
蟇の血今、2話目なのですが、ちょっとまだダラダラした感じです。この後から変な世界になっていきます。



20170917-2.jpg講座は有料なだけあって、資料やスライドがきちんと用意されていました。近藤先生の作品が次々と現れ、展開が早くてついていけなかったので、それだけ充実してみっちりした内容だったと思います。
講演終了後、近藤先生のサイン会が開かれました。
2017.09.28. 17:36 | イベントレポート