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講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回 日本の中世を現代の目で描く
日時:2017年9月17日(日) 14:00〜15:30
会場:江東区森下文化センター 2F 多目的ホール
講師:近藤ようこ先生
企画・コーディネート:綿引勝美(元秋田書店編集者)
講座「怪奇・恐怖マンガの世界」第4回。怪奇・幻想マンガのルーツは江戸時代や中世の伝承文学です。今回は「日本の中世を現代の目で描く」と題し、近藤ようこ先生が講師を務められます。コーディネーターの綿引さんと近藤先生は國學院大学の漫画研究会の先輩・後輩だそうです。國學院大学の漫画研究会は嵐山光三郎氏が設立した歴史ある研究会とのことでした。
1.現在、近藤先生は田中貢太郎の「蟇の血」を連載中
田中貢太郎は戦前に人気のあった作家で、怪談をを書いたり、怪談を紹介したりしています。とても多作な人です。10年くらい前に初めて読んで、とてもおもしろいのでマンガにしたいと思ったのですが、ようやく発表できました。
2.高校時代
新潟中央高校という女子校にいました。その学校には漫画研究会がなかったので、高橋留美子さんらと一緒に設立しました。その頃は24年組がブームだったので、夢中になって読んでいました。
(この辺りで『少年チャンピオン』が出てきました。確かに当時はすごい勢いで、山上たつひこ「がきデカ」の話などが出てました。「光る風」が好きだったので驚いた、というお話をされていました。何故そんな話になっているのかというと、コーディネーターの方が秋田書店の編集者だったからなんでしょうね。)
3.大学進学
高校卒業後の進路を考えたとき、進学して自分の好きな勉強がしたいと思いました。私は白土三平先生の忍者マンガが好きで、その物語に描かれている「何か」が学びたくて、でもその「何か」がどんな名前のわからなくて、いろいろ調べていたら、民俗学というものがあることを知りました。歴史学者の上田正昭先生の「日本神話」(1970)によると、柳田学は幸福の民俗学、折口学は別れや死をあえて拾い上げていた不幸の民俗学であるという趣旨の言葉を読みました。そちらの方が自分にとってはいいなと思って、折口学を学ぶことを決めました。
4.大学時代
大学3年生の時には卒論のテーマを決めなくてはなりません。その頃、網野善彦の「無縁・公界・楽」(1978)が出て、中世史の新しいブームがやってきました。その本は、白土マンガに描かれているような農民以外の職人やこつじき・芸能民など、正史に出てこない人の人々の歴史を取り上げたものでした。
私は卒論のテーマに「説経節」をとりあげました。説教は中世末期から近世初期にかけて成立した口承文芸です。民俗学を卒論のテーマにするのはよいけれど、文学部なので文芸を中心にしなさいと言われたので。
説教節には「五説経」という代表的なものがありますが、「苅萱」「愛護若」「信田妻」「梅若」「山椒大夫」と言われています。
5.説教節「しんとく丸」

「しんとく丸」は謡曲「弱法師(よろぼし)」と同根の物語です。「しんとく丸」に「身毒丸」の字を、「弱法師」に「妖霊星」の字をあてたのは、折口先生に拠るものです。
6.民俗学とマンガ
「カムイ外伝」の「くノ一」のエピソードが大好きでした。抜け忍カムイが木こり集団によそ者として入り込んでいるお話で、木こりが歌う歌がいいんです(※アニメでも再現されています)。網野善彦「無縁・公界・楽」の世界です。
7.懐かしく思い出す「白土マンガ」
大人になって柳田国男を読み、折口信夫を読み、宮本常一を読んで、懐かしく思い出すのは、こういう農民以外の世界を描いた作品でした。
8.楽しく描いた「水鏡綺譚」

9.「今昔物語」とマンガ

10.「今昔物語」と白土三平
白土マンガに「今昔物語」を取り上げた「鬼」という作品があります。
・兄弟が鬼を退治する話
・恋人を裏切った男の話
・鬼の出る堂にいった三人の男の話
(※この辺ちょっと聞き逃してしまいました。)
11.口承文芸「説教節」のマンガ化「小栗判官」

岐阜県大垣市や神奈川県藤沢市のほか各地に残っている「小栗判官・照手姫」の伝説ですが、ゆかりのある地域の人が集まって小栗サミットなども開かれました。私の「小栗判官」は岩佐又兵衛の「小栗」という絵巻物を参考にしました。絵巻物では小栗は烏帽子をつけた公家の姿をしています。小栗は元は公家ですが流罪の末、武士の頭領になりました。ですから、公家の姿のままではマンガにするとき描きにくいので、武士の姿にしました。
12.中世の恋愛模様

13.中世の人間模様

(近藤先生)昔の人は神や仏や運命といったものに翻弄されて生きています。そういうふうに物語は描かれていて、そのやり方でマンガを描くと「キャラが立っていない」と言われてしまいます。今のマンガはキャラクターの魅力で進めていくのが主流なので、私のマンガはちょっと向いていないんですね。
14.「逢魔が橋」

「二河白道図」(にがびゃくどうず)は地獄と極楽の間にかかる白い橋を描いたものです。
橋はどこにも属さず、ひとつの世界から別の世界に渡す物だから、そういう場所を設定すればいろいろな物語が描けるかなと思いました。狂言回しとして橋守を設定しました。
15.「桜の森の満開の下」


坂口安吾の「夜長姫と耳男」と「桜の森の満開の下」は小学館のもうなくなってしまったインターネットのサイトで連載したものです。当時、江戸ものが流行っていたので、そういうものを描いて欲しいと言われて、それは私は得意な分野ではないので、他の方にお願いして下さい、と申し上げました。すると当時の小学館の常務さんが、いやあなたに描いて欲しいのですと言われまして、好きなものを描かせていただけるのなら、とお引き受けしました。この二冊は近々岩波書店から岩波現代文庫で出されます。
「夜長姫と耳男」は耳男は物をつくる人で、その喜びや悲しみを語っているので、私も物をつくる人間なので描きやすかったのですが、「桜の森の満開の下」は、もっと心理的な内容でわかりにくい作品でした。でも、安吾の中で一番人気があって、しかもまとまっている作品です。主人公の山賊はずっと山の中で暮らしていたので、自然と自分の区別がついていない人間でした。それが8人目の嫁に出会うことで、世界と自分は違うのだということがわかってしまった人間の悲劇です。安吾のこの作品における「桜」のイメージは空襲の後の上野公園に死体が並べられていて、その上に桜が散っているのを見たときのものだそうです。
16.「戦争と一人の女」

17.「死者の書」

「死者の書」は折口民俗学を前提として知っている人に向けて書かれているので、知らない人がいきなり読むと難しい作品です。私のマンガはそういう人が原作を読む助けになって欲しいと思っています。
18.「蟇の血」


講演終了後、近藤先生のサイン会が開かれました。